塾生の青柳です。
4月25日、読売ジャイアンツの坂本勇人選手が史上70人目の通算300二塁打を達成しました。29歳4ヵ月での到達は、榎本喜八氏と並んで史上最年少タイだそうです。坂本選手が若くして様々な記録を達成するたびに名前が出てくる、榎本喜八なる謎の選手。昨季、坂本選手が通算1500安打に到達した際にも、榎本喜八に次ぐ2番目の年少記録であると報じられました。ウィキペディアによると榎本喜八とは、王・長嶋と同時代に活躍し、「安打製造機」の異名を最初に取った選手だそうです。あまりに生真面目で野球一筋だったために、時としてその言動を「奇行」と捉えられたり変わり者扱いされていたようです。オフには合気道や居合を習得し、打撃に取り入れて首位打者を獲得したとか、トレーニングのことを「稽古」、バッティングフォームのことを「形」と呼んでいたとか、試合前に座禅を組むことがあったとか、なかなか興味深い逸話がありました。とりわけ下記の内容は私が手力整体で学んでいることと関連しているように思いましたので抜粋します。

1959年のオフ以降、臍下丹田(せいかたんでん)に気持ちを鎮め、そこを体の中心として指先や足先などの体の隅々までを臍下丹田と結び(五体を結び)、連結させるというトレーニング方法を実践するようになる。同トレーニングをすることで、榎本は体の隅々が意識されて、自分の臓器の位置までがわかったという。これらによって効率的な体の使い方ができるようになり、「以前の自分は無駄な力が入りすぎていた」ことや、「バットを振り回すのではなく、バット自身の重さで下に落ちる力をも利用する」ことに気がつき、打撃への理解を深めた[6]。
脚注6. 松井浩著 『打撃の真髄 榎本喜八伝』(2005年、講談社)

施術の際にも、丹田を使って力を出す、ということを求められます。しかし、これが私にとっては至難の業。力が入ってはいけない、力を抜いて力を出す、ということがこれっぽちもできないのです。特に右肩には力が入ってしまいがちです。これを克服するヒントがあるかもしれないと思い、榎本喜八が取り入れたトレーニングを私もやってみようと思いました。五体を結ぶ、ということは座禅がこのトレーニングの根本にあるのでしょう。早速、近所で座禅ができるところを調べたところ、鎌倉は臨済宗大本山、建長寺で座禅会をしているようなので行ってみました。座禅会では、「坐禅の手引き」なるものを頂きます。ここに、座禅にあたっての姿勢や呼吸の方法が書かれています。(建長寺のWEBサイトにも「坐禅の手引き」が掲載されています。)あとは、これを読んで勝手にやれ、と言うスタイルです。まずは、姿勢です。書かれている通りにやってみました。施術の際に求められる姿勢もこれと同じなのだろうと思います。肩の力が抜けているかは分かりませんが、背骨がぐぐぐっと地面の方に落ちてくるような感覚を味わいました。次に、呼吸です。何度も吐いて吸ってを繰り返しているうちに、徐々に腹式呼吸がしづらくなってきました。気がついたら、息を吐ききることを頑張り過ぎて、腹横筋を縮める度に背中が丸まっていたのでした。姿勢が悪いと呼吸もしづらい。姿勢が悪いということは余計な力がどこかに入ってしまっている。なるほど、呼吸がちゃんとできているかどうかは、一つ、力が抜けているかどうかの目安になりそうです。

家に帰ってから、立った姿勢でも試してみました。榎本喜八は、藤平光一氏に合気道を学んでいます。初めて藤平氏と対面した際に、立ち方から学んだそうです。足の裏全体で畳を持ち上げるように立ち、腰、わき腹、背筋が伸びたのを感じたところで、「重みは下」と声に出して言う。という方法で臍下の一点に心を鎮める作業を行ったとのこと。私はこれも真似して、立ってみました。私は普段、お腹突出し姿勢ですが、「重みは下」と唱えると、お腹の位置は本来ここではない、ということが何故だか感じられました。後傾した骨盤を少しずつ戻していくと、「ここが0度だ」という位置が分かったのです。とても不思議な感覚です。地面が骨盤を引っ張っているのに対して、最も垂直な位置とでもいえばよいのでしょうか。試しにまた後傾させたり前傾させたりしてみると、後傾させれば前方に、前傾させれば後方に、重みがすっと逃げて行ってしまうような感覚がありました。さらに、立ち姿勢においてはいつも両足に均等に体重を乗せているつもりでしたが、右脚に重みが強く乗っていることも感じられました。なんだか初めての感覚で、不思議で仕方ありません。「はえー不思議~」なんて思いながら、立つのをやめて休憩のつもりでイスに腰掛けたところ、すごい違和感があるのです。いつもの癖で無意識に脚を組んでいたために、重心がおかしいことが原因でした。脚を組んで重心がおかしいと思うなんて、どうかしてるぜ。そうだ、いまの私はどうかしている。そう思いながら、野球中継が始まったのでそちらに熱中していたところ、たちまちいつものグウタラ姿勢でも何の違和感もなくなりました。そして、今日のところはとりあえず、もう二度とあの感覚は戻ってこなかったのであります。。何度「重みは下」と唱えても…(涙)。修行は始まったばかり。

力とは 入れれば出せず 抜けば出る


よく出来ました